日常に使える心理学

自分のことがよくわからない。その心理と対処法を考える。

私は、人のことならよく分かるのに、自分のことがよくわかりません。

私は普段からよく人から相談される事が多くて、確かに、人の問題になると「こうすれば良いんじゃないかな」という前向きな答えがすぐ分かるのです。

周囲からも「すごく参考になる」と評価されています。

しかし、自分のこととなると、途端に分からなくなるのです。

今の仕事も楽しいのですが「本当にやりたいことなのか」と聞かれると、モヤモヤしてしまいます。

彼と過ごしていて幸せで、彼のためにできることは何でもしてあげたいと思うけど、私が彼からしてほしいことがよくわからなくなったり。

自分がよくわからないとき、どうしたらいいのでしょうか。

ネタ募集ネーム:ささのはさん(一部編集させていただきました)

「人のことならよく分かるのに、自分のことがよくわからない」

確かにそんなことを考えることがあるのかもしれません。

ただ、人のことは客観的に見れるのでよく分かるけれど、自分を客観視することがなかなか難しいのかもしれませんね。

また、自分のことがよく分からなくなることは、ある意味誰にでも起こり得ることで、自分自身の心のあり方の変化や、環境の変化や年齢の変化などでも起こることだと僕は考えています。

では、今日は「自分のことがよくわからへんねん」をテーマにコラムを書いていきたいと思います。

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自分のことがよくわからないと感じる理由

まず、自分のことがよくわからないと感じる理由として代表的なものをご紹介します。

自己同一性のゆらぎ

まず、「自己同一性と呼ばれるもののゆらぎ」が考えられますね。

「自己同一性」は「自分が自分であるという意識や、他者や社会から認められているという感覚」を指します。

ここに揺らぎがあるときに、「自分って何?どんな存在?」なんてふうに感じることがあると考えることができます。

例えば、転職。

転職前の職場ではそこそこの責任とポジションが与えられていたけれど、転職先ではなかなか活躍の機会がない、という場合。

転職前は「自分は自分」「他者や社会から認められているな」と感じられていたけれど、転職後はそう感じにくくなっていった。だから「自分がよくわからなくなりつつある」という感じ。

例えば、パートナーとの別れ。

パートナーと一緒にいたときは「自分は自分でいい」と思えていたけれど、事情があって辛いけど別れることに。すると、別れてから自分のことがよくわからなくなっちゃった、という感じ。

それ以外にも、子育ての終了や退職、転居、時には結婚生活が始まった、なんて一見ポジティブに思えることでも、自己同一性の揺らぎって起こり得るんですよね。

なんだか地に足がついていないような、フワフワするような感じがすることもあれば、自分がよくわからないという強さを感じたり、未来への不安を抱くこともあるようですよ。

そもそも自己同一性って結構難しい概念なんですね。

例えば、僕たちって自分の個性を他人との比較の中で認識している部分があるんですよね。

他人の個性と自分の個性は違うところがあるよね、と。

なので、今回のご質問のように、周囲から「キミってホント〇〇だよね」と評されることもあると思うのです。

その特徴が自分でもわかりやすいものであれば、そうだよね、と素直に受け止められるものかもしれません。

ただ、そうではない場合、その自分の存在をまるっと受け止めらないこともあるかもしれないな、そう思うのです。

例えば、「キミってホント頭が良いし、優しい人だよね」という周囲からの評価を得たとしても、自分の中では「そう言ってもらえると嬉しい。でも、本当にそうかな?」と思っているなら、自己同一性があるとはいい難い状態になっちゃうんですよね。

人は私のことを優しいと言ってくれる。

でも、その私の優しさって周りの人たちのお役に立てているの?

そんなふうに思うとしたら、自分って何?という疑問が残りそうですよね。

他にも「いやーあなたって本当にお子さん思いのいいお母さんですよね!」と評さるお母さんがいたとして、ご自分でも「いいお母さんであるように努力してきたし」と思っていたとしても。

子育てが終わって子どもが手から離れていくと、急に「自分って何?」と考え始める方だっていらっしゃるんですよ。

要は周り(人や環境)の認識と、自分の認識がある程度一致してるよね、と思えている時に「私は〇〇だ」と思えるものなのかもしれませんよ。

むしろ自分の内面でよくわからないと感じているなら、その状態が続いてしまうこともあるのやもしれませんね。

認知の歪みによるもの

また、普段から自分に否定的な評価ばかりをしていたり、過去の失敗を引きずるなど、認知の歪みが生じているときも、自分がよくわからなくなるんですよね。

否定的な認知ばかり持っていると、自己肯定感を低下させ、自分が嫌いになるだけでなく、自分の気持ち自体が不安体になりやすいんです。

いわゆる自己攻撃も同じで、自分を攻撃しつづけていれば、自分のことがよくわからなくなってしまいます。

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ただ、この自分に対する認知の歪みってなかなか気づかないことも少なくないようです。

例えば、自分に過剰に厳しい態度・言動を示している人がいらっしゃるのですが、「それが過剰に厳しい態度・言動である」となかなか気づかないこともあるわけです。

だって、それが「デフォルト」だから。

もちろん自分の、ですけども。

なので、少し自分を客観的に見つめる必要があるんですが、んー、ここがなかなかね、難しい部分が多いのかもしれませんね。

変化を受け入れられないとき

また、自分の身に起きた「変化を受け入れられないとき」も自分がわからなくなることがありますね。

「変えられない何かを受け入れることが難しいとき」と言い換えてもいいかもしれません。

これは具体的に話すとわかりやすいと思うのです。

例えば、「付き合っている彼との関係が怪しくて、もしかしたら別れることになるかもしれない、と感じている女性」がいたとしましょう。

でも、その女性は彼のことが好きで一緒にいたいと思ってる、とします。

そんな状態にある人の中には「自分のことがよくわからない(何をしたらいいかわからない)」なんて感じる方もいるようです。

まぁちょっとシビアな話になっちゃうかもしれませんけど、その女性が「なんとなく二人の関係が怪しいよね」という事実を切ないけれど受け止めて、向き合っているなら「自分はこうしよう」「ベストを尽くそう」と思えるものかもしれません。

つまり、そこで「自分」を感じられるんです。

しかし、これも仕方のないことなんですけど、今の怪しい状態を見ないようにしたり、「そんなことないはずだ」と否認したり、今の状況を受け入れたくないと思うなら、「自分のできること」もなくなっちゃいそうですよね?

つまり、自分がよく分からなくなるんです。

他人のために自分がいなくなる場合

また、ちょっと個別ケースの話になっちゃうんですけど、長くカウンセリングをさせていただいていると

「人のために役立とうとする人の中には自分がいなくなる・消えちゃってる」という場合もあります。

相手のことを考えたときに、まぁ自我を消しちゃうタイプといいますか。

実際に自我が消えるわけじゃないのですが、意識的に感覚的に「相手のためを優先するときに、自分という意識や感覚がなくなっちゃう」という方がいると僕は思っています。

すると、人のために役立ったとしても、自分がいないから、その結果をフィードバックさせる自分が見当たらなくなっている感じ。

一見すると自己犠牲のようにも見えるし、相手の役に立てないことへの恐れから自分のことを考えないようにしている場合もあると思うのですけどね。

このタイプの人は、相手のことはよく見えているので相手の役には立てるのです。

が、自分って何?という感覚が残りやすいので、「周囲の評価<自分の評価」という構図になっていることが少なくないのかなと思います。

自分のことがよくわからなくなったときの対処法を考える

ここからは、自分のことがよくわからなくなったときの対処法を考えていきます。

ストレスを軽減するよう心がける

とてもシンプルなことと思われるかもしれませんが、ストレスを軽減するように心がけることもおすすめです。

例えば、睡眠をしっかりとること。

睡眠不足は、精神的なバランスを崩し、自己肯定感を低下させます。

また、軽い運動をする。

運動は、ストレスを軽減し、気分転換になります。

リラックスできる時間を設けるのもいいですね。

好みの音楽を聴いたり、読書をしたりするなど、リラックスできる時間を意識的に作ることもおすすめです。

「自分が決めている」という感覚を取り戻す

これは一つの考え方ですけどね。

「自分がよくわからなくなっているとき」って、自分のことがわからないからこそ、自分でなにか決めたり行動している感覚が薄くなることがあります。

だから、些細なことでも「自分が決めた」「自分が行動している」という意識を持って毎日を過ごされてみるといいかもしれません。

これは「自分の言動に対して過剰なまでの責任を背負いこむ」ということではなく

シンプルに「私が選んでいるんだ」と意識することがポイントといいますかね。

例えば、自分のことがよく分からなくなると、日々の生活、例えば、仕事も家事も育児もパートナーとの関係も、「自ら選んでる。行動している。」という意識や感覚が薄くなることがあります。

だからこそ、「自分って何者なんだろう?何がしたいんだろう?」と考えてしまう時間が増えてしまうのかもしれませんけどね。

また、離婚や失恋、子育ての終了や退職など、今まで自分のアイデンティティを支えていた何かを失った、という場合は、そもそも「これからどうなるんだろう?何を目的に生きていけばいいんだろう?」と思いやすい状況がそこにあるとも言えるんですよ。

なので、日常の中の小さな行動でいいので「自分が選んで行動している」という意識を持つと、少しづつ自分というものに対する意識が変容して、自分を捉えやすくなることもあるようですよ。

自分自身の感情に対する理解を深める

自分の感情を正確に把握し、表現することは、自己理解の第一歩となります。

人間何でもかんでも感情だけで自分を理解したり、行動しているわけじゃないんですが、しかし、自分自身の感情を無視したり、抑圧したりすると、自分がわからなくなるのですね。

自分って何を感じているんだっけ?

そう思うだけで、どこか自分がわからなくなっているように感じません?

心理学には「セルフ(自己)」という言葉がありますけど、このセルフをもう一度認識視するプロセスでは、自分自身の感情(感情を感じる体験)も、大切な要素の一つになると考えられています。

だから、例えば「感情日記」といって、今日出来事を自分の気分とともに日記としてつけていく方法などを使って、自分の感情を見つめる方法もあり、なんですよね。

もちろんカウンセリングの中でカウンセラーに話していただいても自己理解を深めることに繋がると思います。