浅野先生へ質問
いつもお世話になっております。
ワクワク男ランドの記事に大変お世話になりました。

1回目は当てはまり過ぎて爆笑しながら読んだんですが、2回目は心に暗い気持ちが立ち込め笑 何度も読むうちに、マジで卒業しようと思えるようになりました。
本当にありがとうございます。そのほかのブログも、毎度楽しみにしております。
質問の内容ですが、私は「寂しいというのも刺激の一つである」という文をどこかで見かけ、すごく引っかかっていました。
そしてふと、私って、自分に寂しい思いをするように仕向けているように思えてきたんです。
過去、ずっと暮らしていた街を離れ、上京した時も寂しくて死にそうな思いを大袈裟に感じていました。
働きたいと思っていた場所で働いていても、自分なんかいてもいなくても一緒だと思うようになって、それを打ち消すようにハードワークしてみたり、結婚して突然仕事を辞めて誰もいない場所に嫁いで毎日泣き暮らして見たり、離婚したり。
結果論ではありますが、自分で選んできた道と考えれば、いつも自分に寂しい思いをさせてきたようにも思えてきてしまったのです。
小さい頃から、公園で一人で風を感じたり、木とお話ししたり、夕日を眺めたりして、一人でいることで胸がギュッとなる感覚が好きだった、そういう痛い子だったのは覚えており、(今でも少しそうですが、、)母からも昔から不思議ちゃんだったと言われますが、まさか大人になってからも、この不思議ちゃんを拗らせ、寂しさを選んできた、とかそんな怖いことないよな、と思って質問させて頂きました。
長くなりましたが、自分から寂しさとかノスタルジックな気持ちに、まさか人生を賭けて浸りたがる人っていますか?という質問です。。
ネタ募集ネーム:あやさん
あやさん、貴重なご質問、そして体験のシェア、本当にありがとうございます。
今日は、あやさんのご質問
「自分から寂しさとかノスタルジックな気持ちに、まさか人生を賭けて浸りたがる人っていますか?」
に対して、心理学的な視点、特に「ノスタルジー」という感情にも焦点を当てながら、僕なりにお答えしてみたいと思います。
「人生を賭けて」とまで強い意志があるかは別として
「なんだか、ノスタルジーに浸るのが好きだなぁ」
「ふと、あの頃の切ない感覚や、一人でいた時の寂しさを思い出すと、妙に落ち着くんだよな」
そう感じる方は、実は少なくないのかもしれません。
それが結果的に、あやさんがおっしゃるように「自分が寂しさを感じるような環境や状況に身を置く」ことに繋がっている可能性も、確かに考えられます。
なぜ、私たちは時に、甘美で、時に切ない「ノスタルジー」に浸りたくなるのでしょうか?
そして、それは「寂しさ」とどう関係しているのでしょうか?
Index
まず「ノスタルジー」とは何か?心理学的な意味を探る
「ノスタルジー(Nostalgia)」と聞くと、どんなイメージがありますか?
昔の音楽、卒業アルバム、子供の頃に遊んだ場所… きっと、人それぞれに思い浮かべる情景があるでしょう。
一般的には「過去を懐かしむ気持ち」「郷愁」と訳されますが、心理学では、ノスタルジーは単なる過去の記憶の再生ではなく、特有の感情を伴う、複雑な心理現象として捉えられています。
それは多くの場合、「ほろ苦い(Bittersweet)」感情です。
過去の楽しかった記憶や温かい人間関係を思い出して心が温かくなる(Sweet)。
一方で、その時代はもう戻らないという切なさや、失われたものへの軽い感傷(Bitter)も同時に感じる。
そんな感じですね。
ノスタルジーにまつわる心理
また、近年の心理学研究では、このノスタルジーという感情が、私たちの心にとって多くのポジティブな機能を持っていることが分かってきています。
英国サウサンプトン大学のコンスタンティン・セディキデス(Constantine Sedikides)教授とその共同研究者たち(Tim Wildschut氏、Clay Routledge氏など)は、実験や調査といった様々な手法を用い、人々がノスタルジーを感じるきっかけ、その時の感情、そしてノスタルジーがその後の心理状態や行動に与える影響などを体系的に調べてきました。
例えば…
- ポジティブ気分の向上: 過去の幸せな記憶に触れることで、現在の気分が改善されることがあります。
- 自己肯定感の強化: 過去の成功体験や、自分が他者から愛され、必要とされていた記憶を思い出すことで、「自分は価値ある存在だ」という感覚が高まります。
- 社会的繋がりの感覚の増大: 家族や友人、恋人など、大切な人との過去の繋がりを思い出すことで、孤独感が和らぎ、「自分は一人ではない」という感覚が強まります。
- 人生の意味や連続性の感覚: 過去の自分と現在の自分を繋げ、人生が一貫した物語であると感じることで、生きる意味や目的意識が高まることがあります。
- ネガティブ感情への対処: 孤独感、退屈、不安といったネガティブな感情を感じている時に、ノスタルジーに浸ることで、心理的な慰めや安定を得られることがあります。
つまり、ノスタルジーは決して単なる「過去への逃避」とは限らず、私たちが現在をより良く生きるための、大切な「心の資源」となり得るようなのですね。
なぜ私たちは「ノスタルジーに浸るのが好き」なのか?
さて、ここからが本題です。
なぜ私たちは、この「ノスタルジー」に、時には「浸るのが好き」と感じるほど惹かれるのでしょうか?
一つは、先ほど挙げたようなポジティブな機能があるからです。
ノスタルジーがもたらす温かさ、自己肯定感、繋がりへの感覚は、それ自体が心地よい体験ですよね。
特に、現実が少し辛い時や、心が疲れている時に、過去の良い記憶にアクセスすることで、束の間、心が慰められ、エネルギーを充電できる感覚があるのかもしれません。
そしてもう一つ、あやさんのご質問にも繋がる重要な視点が、「気分(感情)の調整」という側面です。
特に、心理学で「同質の法則」と呼ばれる考え方が参考になるかもしれません。
同質の法則とは?
これは平たく言うと、「自分の内面の気分と、外側(聞く音楽、見る景色、いる環境など)の状態が一致している時に、人は心の安定を感じやすい」という法則です。
例えば、失恋して深く落ち込んでいる時に、無理にアップテンポな明るい曲を聴いても、なんだか余計に辛くなったりしませんか?
むしろ、少し切ないメロディの失恋ソングの方が、不思議と心に沁みて、落ち着く感じがする。
これは、曲の持つムードと自分の内面の状態が「同質」であるため、心が拒否反応を起こさず、むしろ「そうだよね、わかるよ」と寄り添ってもらえているような感覚になり、一時的に安定するからです。(もちろん、それで気分がすぐに晴れるわけではありませんが)
この「同質の法則」を「ノスタルジーに浸るのが好き」という感覚に当てはめてみると、こういうことが考えられます。
もし、あなたが現在、何か満たされない気持ち、漠然とした寂しさ、あるいは言葉にならない複雑な感情(それこそ「シンプル。でも実はちょっと複雑」な!)を抱えているとしたら。
無理にポジティブであろうとするよりも、ノスタルジーの持つ「ほろ苦さ」が、今のあなたの心の状態に、より自然にフィットするのかもしれません。
過去の温かさ(Sweet)と、もう戻らない切なさ(Bitter)が入り混じったノスタルジックな気分は、複雑な内面の状態と波長が合い、「これでいいんだ」という一時的な心の安定、あるいは一種のカタルシス(感情の浄化)をもたらしてくれる。
だから、「浸るのが好き」と感じるのではないか、ということです。
言い換えれば
「ノスタルジーに浸ることが、今の自分の気持ちを安定させるための、無意識的なコーピング(対処)方法になっている」
そんな可能性が見えてきます。
ノスタルジー、寂しさ、そして「本当の自分」
あやさんのご質問では、「寂しさ」と「ノスタルジックな気持ち」が近いものとして語られていましたね。
確かに、ノスタルジーは時に、過去に感じた寂しさや、一人でいた時間の記憶と結びついていることもあります。
公園で一人で風を感じていた時の、あの胸がギュッとなる感覚…。
それは、孤独ではあったかもしれないけれど、同時に自分自身と深く向き合っていた、純粋で、ある意味では豊かな時間だったのかもしれません。
ただ、ここで元の記事(あやさんのご質問への回答)で触れた視点も重要になります。
もし、「ノスタルジーに浸る」ことや、「寂しさを感じる状況を選ぶ」ことが、パターン化しているとしたら?
それが現在の人間関係や人生の選択(例:親密さを避けがち、安定しない状況を選びがち)に影響を与えているとしたら?
それは、もしかすると
【過去に満たされなかった「もっと繋がりたかった」「安心したかった」という本当に感じたかった感情を避けたり、諦めたりしたことへの、無意識の反応】
かもしれません。
ノスタルジーや寂しさという「受け入れやすい(あるいは、慣れ親しんだ)」感情に浸ることで、直面するのが怖い、より深い欲求や感情(愛されたかった、分かち合いたかった、など)から目を逸らしている。
そんな可能性も、ゼロではないのです。
ここでもやはり、自分自身の心の動きに対する「解像度」を上げていくことが大切になります。
「私はなぜ、今、ノスタルジーに浸りたいのだろう?」
「この感情は、今の私に何をもたらしてくれているのだろう?」
「そして、もしかしたら、避けている感情はないだろうか?」と。

「ノスタルジーに浸ること」との、健やかな付き合い方
ここまで読んで、「やっぱり、ノスタルジーに浸るのは良くないことなのかな?」と不安になった方もいるかもしれません。
でも、結論から言えば、そんなことはありません。
先述の通り、ノスタルジーは基本的に、私たちの心を豊かにし、支えてくれるポジティブな感情です。
「ノスタルジーに浸るのが好き」という感覚も、それ自体は自然で、大切な個性の一部と言えるでしょう。
大切なのは、その付き合い方、バランスです。
- そのノスタルジーは、あなたの「今」を豊かにしていますか? それとも、過去にばかり囚われ、「今」を生きることから遠ざけていますか?
- ノスタルジーに浸ることは、あなたの自由な「選択」ですか? それとも、気づけばいつもそこに「逃げ込んでいる」ような感覚ですか?
- 過去の繋がりを思い出すことで、現在の人間関係をより大切にしようと思えていますか? それとも、現在の関係性の不満から目を逸らすために使っていませんか?
自分自身にこんな問いを投げかけてみることで、ノスタルジーとの健やかな距離感が見えてくるかもしれません。
まとめ
「ノスタルジーに浸るのが好き」
その感覚の裏には、単なる過去への憧憬だけでなく、心を安定させたり、自己肯定感を高めたり、人生の意味を感じさせたりする、大切な心理的な働きがあります。だから、その感覚を無理に否定する必要はありません。
一方で、もしその感覚が過度になったり、現在の人生に影響を与えていると感じたりするならば、それが「同質の法則」による一時的な安定を求めているだけなのか。
あるいは、もっと深い部分で満たされない感情や欲求から目を逸らすためのパターンになっていないか、自分の心の「解像度」を上げて見つめてみることも有益でしょう。
ノスタルジーは、私たちの人生を豊かに彩るスパイスのようなもの。
上手に付き合えば、過去から力をもらい、現在をより良く生きるための、素晴らしい味方になってくれるはずです。
あなたのノスタルジーとの関係が、より健やかで、あなたらしいものであることを願っています。
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