こんにちは。心理カウンセラーの浅野寿和です。
「もう、人の期待に応えるのはやめた!」
「これからは、自分のことだけを考えて、自分を満たすために生きるんだ!」
かつて、周りの人のため、会社のため、パートナーのために、自分の気持ちや限界を後回しにして、一生懸命に尽くし、頑張り続けてきたあなた。
でもある日、プツンと糸が切れたように
「もうこんな生き方は嫌だ!」
と、大きな方向転換を決意した、そんな経験をお持ちの方もいるのかもしれませんね。
それは、燃え尽きる寸前だった自分を守るための、あるいは、ずっと無視してきた自分の心の叫びに、ようやく耳を傾け始めた、勇気ある一歩だったはず。
そして、実際に、自分の好きなことにお金や時間を使ってみたり、人に気を遣うのをやめてみたり、心地よいことだけを選んでみたり…。
そうやって「自分を満たす」ことを実践し始めた。
・・・なのに、なぜでしょう。
最初のうちは解放感があったかもしれないけれど、時間が経つにつれて、なんだか心が満たされない。
それどころか、以前とは違う種類の「虚しさ」や「物足りなさ」を感じてしまう…。
「自分のために生きるって決めたのに、なんでこんなに虚しいんだろう?」
もし、あなたが今、そんな不可解な感覚の中にいるとしたら。
今日は、その「自分を満たしても虚しい」という心の謎について、一緒に深く探っていきましょう。
Index
「自分を満たしても虚しい」状態とはなにか

まず、この記事で扱う「自分を満たしても虚しい」とは、具体的にどのような心理状態を指すのかについてお伝えします。
それは
「かつての自己犠牲や過剰な他者優先への反動から、意識的に「自分の欲求」を満たそうと行動しているにも関わらず、それが表面的な満足に留まっていたり。
心の奥底で本当に求めている「人との温かい繋がり」「ありのままの自分への肯定感」「人生の意味や貢献感」といった深層的なニーズが満たされていなかったり。
あるいは、自分を優先することへの無意識の罪悪感が邪魔をしたりすることで、結果的に心が満たされず、空虚さや物足りなさを感じてしまう状態」
を指します。
一見、自分を大切にするステップに進んだようでいて、実はまだ本当の意味での心の安定や深い喜びには至っていない、重要な過渡期(発達プロセスの一部)に見られる感覚とも言えると僕は考えていますよ。
ステージ1:「誰かのため」に自分を捧げた日々(自己犠牲と依存の段階)
私たちの多くは、人生のどこかで「誰かの期待に応えたい」「人の役に立ちたい」「愛されたい」と強く願います。
それはとても自然なことです。
しかし、過去の経験(例えば、ありのままでは受け入れられなかった、良い子でいないと安心できなかったなど)から、その願いが歪んでしまうことがあります。
「私が我慢すれば丸く収まる」
「相手を喜ばせないと、私には価値がない」
「嫌われないためには、相手に合わせ続けなければならない」
そんな風に、自分の本音やニーズを押し殺し、他者や関係性を優先し続ける「自己犠牲」や「過剰適応」のパターン。
特に、優しくて責任感の強い「愛深き忍耐女子さん」は、この状態に陥りやすいかもしれません。


この段階では、一見、献身的で、周りからは「いい人」と見られるかもしれません。
しかし、心の中では常にエネルギーを消耗し、不満や怒り、そして深い孤独感を溜め込んでいます。「自分がない」感覚に苦しんでいることも少なくありません。
これは、場合によっては「癒着」に近い状態であり、健全な自立や対等な関係性とは、少し違う場所です。

ステージ2:「自分のため」への大きな舵切り(心理的自立への試み)
そしてある日、その自己犠牲的な生き方に限界が訪れます。
「もう無理だ!」「こんなのは嫌だ!」という心の叫びが、あなたを突き動かします。
「これからは、自分の気持ちを大切にする!」
「自分の好きなことを、自分にやらせてあげる!」
これは、いわば「心理的な独立宣言」。
他者の評価や期待に依存していた状態から抜け出し、「自分」という存在を確立しようとする、非常に重要な転換期。
これまで抑え込んできた自分の欲求(美味しいものを食べたい、休みたい、好きなものを買いたい、NOと言いたい…)に正直になり、それを満たそうと行動し始めます。
このステージへの移行は、多くの場合、大きな解放感や、時には反動からの強い自己主張を伴います。
自分を取り戻すための、パワフルで、そして必要なプロセスなのです。
ステージ3(現在地?):「自分を満たす」はずが…訪れる「虚しさ」の正体
さて、問題はここからです。
一生懸命「自分を満たす」ことを実践しているはずなのに、なぜか心が満たされず、「虚しさ」を感じてしまう。なぜでしょうか?
この虚しさの正体は、「あなたが間違っている」からでも、「結局、幸せになれない運命だから」でもありません。
心理学的な視点、特にエリク・H・エリクソンの発達課題の視点から見ると、これは「次の段階への移行期」に特有の感覚と捉えることもできそうなのです。
では、なぜ、自己充足だけでは満たされないのか? 考えられる理由をいくつか見てみましょう。
- 振り子の反動:自己犠牲の極から自己中心の極へ、バランスが偏りすぎているだけかもしれない。
- 表面的な欲求:満たしているのが一時的な快楽や気晴らしで、心の奥底の繋がりや意味への渇望は満たされていないのかもしれない。
- 未解決の課題:自己犠牲の根にあった自己肯定感の低さや不安が解消されないままなので、何をしても安心できないのかもしれない。
- 繋がり・貢献感の喪失:「人のため」を完全に手放したことで、健全な繋がりや貢献から得られる喜びも失ってしまったのかもしれない。
- 無意識の罪悪感:自分を優先することへの慣れない罪悪感が、喜びを邪魔しているのかもしれない。
「親密性 vs 孤独(Intimacy vs. Isolation)」という視点
エリクソンは、青年期以降の重要な発達課題として「親密性 vs 孤独(Intimacy vs. Isolation)」を挙げました。
これは、自己を確立した上で、他者と深いレベルで心理的に繋がり、愛し愛される関係性を築く、という課題です。
もし、あなたが今感じている虚しさが、愛、つまり他者との親密な関係を築くという課題(エリクソンの言う『親密性 vs 孤独』の段階ですね)に難しさを感じていることからくる「孤独感」なのだとしたら、エリクソンの理論はその心の状態を明確に示唆していると言えるでしょう。
つまり、かつての「自己犠牲」が、もしかしたら健全な自立や親密さから遠いあり方だったとしたら。
一度「自分を満たす」という段階(たとえそれが一時的に利己的に見えたとしても)を通過することは、あなたが本当の意味で「自分を大切にしながら、他者を愛する力」(成熟した親密性)を獲得するために、必要不可欠なステップだったのかもしれません。
今感じている虚しさは、「自分を満たすこと自体が間違いだった」というサインではなく、
「自己充足という段階を通過し、次のステージ」。
つまり、満たされた自分で、どう他者と健やかに関わり、愛を与え、受け取っていくか?という新しい課題への移行(愛への覚醒)を促すサイン、と捉えることもできるのです。
「利己的だった?」という誤解について
この「自分を満たす」ステージを振り返って
「あの時の私、すごく自己中心的だったかも」
と罪悪感を感じる方もいるかもしれません。
でも、思い出してください。
それは、長年自分を犠牲にしてきたあなたが、自分を取り戻すために必死だった証拠ではないでしょうか?
一時的に「利己的」に見えるプロセスを経ることが、結果的に、他者とのより健全で対等な関係性を築くための土台となることは、心理的な発達において非常によくあることなのです。
だから、自分を責める必要も、後悔する必要はありません。
ただ、「あの段階も、私には必要だったんだな」と理解してあげてほしいのです。
ステージ4:「私」と「あなた」を統合する愛へ(成熟した親密性と貢献、そして愛への覚醒)
では、この虚しさを越えた先にある、次のステージとは何でしょうか?
それは、「自分を大切にすること」と「他者を大切にすること」が、対立するのではなく、調和している状態です。
- 自分の本音やニーズを大切にしながらも、相手の気持ちや立場を尊重できる。
- 健全な境界線を保ちながら、安心して心を開き、深いレベルで繋がれる(成熟した親密性)。
- 義務感や自己犠牲からではなく、自分の中から湧き上がる喜びや使命感から、他者や社会に貢献できる(エリクソンの言う生殖性・世代性にも繋がる視点)。
- 与えることと、受け取ることの、自然で豊かな循環がある。
この段階に至ると、「自分を満たす」ことは、もはや必死の渇望ではなく、自然な呼吸のように行われ、そして、その満たされた自分で他者と関わること自体が、さらなる喜びと充実感をもたらします。
これこそが、僕が考える「愛への覚醒」に近い状態なんですよ。
まとめ
「もう誰かのためには頑張らない」と決意したあなたが、今、もし「自分を満たしても虚しい」と感じているとしても、それは決して後退ではありません。
むしろ、あなたは自己犠牲という段階を卒業し、自分自身を確立するというステップを経て、より成熟した愛と繋がりのステージへと進む、まさにその移行期にいるのかもしれません。
私たちの心は生涯を通じて発達し続けます。
今感じる虚しさは、次のステージへの扉が開かれようとしているサインと捉えてみてください。
好きな人を心から愛した経験も、自分を満たそうと必死に努力した経験も、どちらも後悔する必要はありません。
ただ、その経験が、今のあなたを不必要に苦しめるものである必要はない、ということ。
その先にこそ、一時の快楽や解放感とは違う、穏やかで、持続的な、そして深い充足感、すなわち「愛への覚醒」とも呼べるような状態が待っているのだと、僕は信じています。
あなたの「本当の幸せ」探しの旅、そして「愛への覚醒」の素晴らしいプロセスを、心から応援しています。
もし一人でその道を歩むのが難しければ、いつでもその伴走をさせていただけたら嬉しいです。
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